椅子

子供の頃、近所に絵描きの人が住んでいて、亡くなった際の形見分けに一脚の椅子を貰い受けた。絵を描く時に使っていたと思われるその椅子は貰った時には既に座面が酷くヘタっていて椅子としての機能はあまり果たしていなかったけど、その使い古された感じが好きで20年来ずっとそのままにしていた。しかし最近ふと心変りがして自分で張り替えようと思い、被さっていた布を剥ぎ取ってみた。

中から出て来たクッション材がウレタンではなく藁の細切れなのがこの椅子の作られた時代を偲ばせる。そして最後にむき出しとなった座面の木はこんないびつな丸い形。

…その佇まいに張り替えるのはやめてしばらくこのままにしておくことにした。